マネージャーがうちの親父に挨拶した時に言われた言葉
THE BACK HORNをやりはじめて数年たった頃おれの実家に当時のマネージャーが宿泊することになった。おれとマネージャーの寝る部屋には、親父が何処かから何の相談も無しに運び込んできた武将が着るような鎧があった。親父は連日、ほつれた鎖かたびらを編んでいるらしい。
まだ修復途中だったが、なかなか力作のように見えた。
マネージャーは大人としてまだ顔を合わせてない我が家の親父に挨拶したいと言い出した。おれはそのうち出てくるから奥の部屋には近づかない方がいい、と忠告した。だいたい酒とタバコを過剰摂取しながらハードボイルド小説を貪り読んで過ごしているので、現実とハードボイルドの区別がつかない時があるのだ。
おれとマネージャーが鎧を眺めたりバンドの今後について語り合って過ごしていると、親父が奥の部屋から出てきた。おそらく便所だろう。行きのタイミングで声をかけるのは菅波家においてはニワカ認定だ。普通にキレられる。帰り道のタイミングを見計らっておれとマネージャーはふすまを開け廊下に出た。
「あ、このひとおれのマネージャー」
「栄純さんにはお世話になっております。マネージャーの○○と申します。栄純さんはバンドでも曲を書いたり、活躍しておりまして、、、」
大人としての最低限の挨拶+トークをするマネージャーの言葉を遮って親父は言った。
「どうでもいいが、俺の鎧に触んなよ」。
え!そこ?!っておれとマネージャーは思った。社交辞令が通じない男だとは思っていたがやはり想像を超えていた。
親父が去った後、マネージャーは「なんか、栄純の親父、かっこいいな」と謎に評価を高めていて、おれは困惑と同時に親父がかっこいいと言われてちょっとだけ嬉しかったということも記しておく。